2005年夏
2006年春
5月3日(40〜43番)
2007年春
2007年冬
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■修行の道場は終わったが、まだ修行は続く四十番霊場「観自在寺」(9:15/本日30.0km/累計302.2km) 朝6時に目を覚ますと、もう出かける人が居る。僕は6時半からの朝食をいただいて、6時50分出発。食事の時気づいたが、昨日の朝、道を尋ねた白髭のお遍路が同宿だった。挨拶しそびれてしまった。 天気は快晴だ。 宿毛の中心部を抜けると、すぐに登り坂が始まった。おまけに向かい風。めげた気分で走る。さすがに4日目ともなると脚にダメージがたまっている。特に走り始めはつらい。しかし、そんなことも言ってられないので、頑張ってペダルを踏む。 途中、何人かのお遍路を、挨拶しながら抜く。その内の一人が 1時間ほど山の中を走ると、「愛媛県」の看板が目に入る。7時50分。ようやく修行の道場である高知県は終わった。次の愛媛県は菩提の道場なのだが、名前の通り楽はさせてくれるのだろうか。
愛媛に入ってすぐ、レモンイエローの、モダンな建物が目に入った。上の写真で、黄色い屋根だけ見えている建物だ。アスレチックジムらしいのだが、建物の正面では文旦などの柑橘類を売っている。なんだかうろんな雰囲気だ。そのまま通り過ぎる。 一本松を通り過ぎ、道は徐々に高度を上げていく30分ほど走っただろうか。また文旦売りの店があった。クロネコののぼりも立っている。ここで買えば発送もしてもらえる。両親への土産にいいかもしれない。休憩がてら、自転車を停めて眺めていると、がっしりした年配の男性が奥から出てきた。小柄で逞しい坂上二郎、といった感じ。店のご主人らしい。 何が懐かしいのか最後までわからないまま、怒涛のごとく文旦の説明になった。よく聞くと、先にあったレモンイエローのジムもこの人の経営しているものだそうだ。新鮮なものを選んで、送ってもらうよう依頼する。なんだか調子のいい店だったが、面白かったのでよしとする。 トンネルを二つくぐると、そろそろ観自在寺に近づく。ここのトンネルは、自動車用と歩行者・自転車・原付用に分かれている。明るくて快適だが、無人のトンネルを一人走るのも不気味だ。一応、防犯カメラもあるらしいが。 トンネルを抜けると下り坂で、すぐに観自在寺の看板が見えてきた。快晴のせいもあるが、明るい雰囲気の札所だ。山門を入って、八体仏という石の仏像を眺めながら本堂へ。本殿はまだ真新しい。対して大師堂は落ち着いた雰囲気だ。
9時45分、出発。 ■自転車イージーライダー宇和島バスセンター(13:45/本日71.2km/累計343.4km) 観自在寺を出てしばらくすると、国道56号は海に出る。そのまま海沿いを走るが、靄もなく晴れ渡った空のもと、今日の海は一段ときれいだ。海水も透き通っていて、浅いが底まで見通せる。 そんな道を1時間ほど走った頃、道はちょっと内陸を通る。そこでアイスクリン売りのおばちゃんが、開店準備をしていた。おばちゃんといっても、僕とそんなに変わらない年恰好だ。バニラとメロンのミックスを頼む。 アイスクリンを食べながら立ち話。
アイスクリンののぼりの取り付けを手伝った(邪魔した?)後、出発。しかし、それから10分も走らないうちに喫茶店を見つけると、思わず入ってしまった。これから宇和島まで、空腹を我慢するのはつらそうだったので、早めに昼食をとることにしたのだ。 店のカウンターには「へんろ道保存協力会」の集合写真があった。草刈奉仕か何かの記念写真だろうか。よくわからなかった。カツカレー900円とアイスコーヒー400円を頼む。ちと高いかな。味は良かったが。 ところで今回立ち寄った何軒かの喫茶店に、なぜか必ず置いてあったのが「サラリーマン金太郎」。高知で喫茶店に入ると、どこも全巻揃っていた。愛媛に入ったここにも置いてあった。本宮ひろ志と四国人、肌が合うのだろうか。今回、回っている間に5冊は読んだと思う。若い友人のやっているインターネット古本屋で買おうかと思ったが、置く場所がないのであきらめた。 30分ほどで出発。走り出しは脚がこわばって痛い。10分ほど走れば治まるのだが、これには参った。考えてみると、生まれて五十有余年、こんなに脚を酷使したことはなかったものなぁ。
道はやがて海を離れ、内陸へ入り込む。松尾トンネルに向かう峠道に入ったようだ。途中、トンネルをくぐる。ここにも歩行者・自転車用トンネルがある。経済性からいったら成り立たないだろうが、増えてほしいものだ。
1時15分、松尾トンネルが見えてきた。全長1700m。交通量もけっこう多い。歩きのお遍路はきつい峠越えでトンネルをバイパスすることが多いようだが、自転車では逃げようがない。そのまま突っ込む。 一応、歩道はあるので、そこを進む。マスクを持ってくればよかった。前方に何人か、歩きのお遍路がいた。歩道が狭いので追い抜くのに苦労する。軽く声をかけて抜いていく。気を使って声をかけるのだが、中には「きゃっ!」と悲鳴を上げる女性遍路もいたりする。暗いトンネルの中、いきなり声をかけられると誰だって驚くよな。といって、無言で追い抜くのも愛想がないし、追い抜いてから挨拶なんかしてたら車道に転落するだろうし。なんにせよ、配慮がなくて申し訳なかったです。 出口近くになって、一人の年配の男性遍路が歩いていた。歩道の真ん中を歩いている。だいぶ疲れているようだ。声をかけてどいてもらうのも気が引ける。自動車の流れが切れるのを見計らって、自転車を車道に降ろし、一気に走る。最初から、車道を走ればよかったかも。 トンネルを抜けてほっとして走る。道は下りだ。やがて宇和島の市街地に入る。 けっこう大きな街だ。車の混みあう国道56号に沿って、ひたすら走るだけなのだが、市街地は道がわかりにくい。交通標識を目印に、宇和島市内を折れ曲がって進む。 と、前に二人の自転車遍路の姿が見えた。白衣を身につけた自転車遍路は、自分以外初めて見かける。どちらもバッグを4つつけた重装備の自転車だ。後ろから見ると、白衣がはちきれそうな、いい体格をしている。急ぐでもなし、悠々と走っている。追いついて挨拶をする。 サングラスをかけ髭をはやし、自転車よりは、ハーレー・ダビッドソンに乗っているほうが似合いそうだ。二人のうち、後方の一人が声をかけてきた。 街の中心部を回りこむように、国道56号は折れ曲がる。そのうち日陰になったバス停を発見。宇和島バスのバスターミナルのようだ。そこで休憩する。10分ほどゆっくりしたが、先ほどのイージーライダー自転車遍路は姿を現さなかった。 ■愛知の逆打ち遍路と出会う四十一番霊場「龍光寺」(15:00/本日82.8km/累計345.4km) 宇和島中心部を離れ、県道57号に入る。へんろマークを頼りに走っていると、前方から男性のお遍路が一人歩いてきた。挨拶をする。逆打ちで回っているという。白髪まじりだが、僕より多少年上、といったところ。 ふと、地図でも落としたのかと思い、Uターンして彼に追いつく。コピーした地図が不要だったので、困っているようなら渡そうと思ったのだ。追いついて聞いてみると、そうではなかった。 話しているうちに彼が同じ愛知県の人だということがわかった。納め札を交換する。Hさんという、57歳の方だった。今まで順打ちで2回歩いて、今回の逆打ちが3回目だという。 宇和島を出ると、道は上がり勾配となる。苦になるほどきつい坂ではない。小さな川沿いに、うねうねと坂が続く。何人かの歩きのお遍路を追い抜く。 1時間近くペダルを踏み続けると、龍光寺のある集落に出る。ちょっと開けた豊かな山村というイメージだ。県道から少し入ったところに龍光寺はあった。入り口には食堂兼土産物店がある。その近くに自転車を置き、階段を登って参拝。小ぢんまりとしているが、いい佇まいだ。
参拝を終え、門前の食堂でトイレを借りてから出発。3時30分。そろそろ時間が押してきた。 ■文旦売りのおじさんに励まされる四十二番霊場「仏木寺」(15:50/本日86.9km/累計359.1km) 仏木寺はすぐ近くだ。両側に田圃の広がる県道を走る。しかし疲れがたまっていて、なかなかスピードが出ない。先ほどの参拝で、脚の筋肉がすっかりこわばっている。しかも、こんな時に限って向かい風だし。ずいぶん時間がかかったような気がしたが、20分で仏木寺に到着。屋根の上の金色の珠が、遠くからでも目立つ。
自転車を停めていると、入り口の、文旦売りのおじさんが話しかけてくる。 お礼を言って、まずは参拝。 仏木寺も、小ぢんまりした札所だった。この札所は、ほんとうに平地にある。言われなければ、ごく普通のお寺だろう。しかし落ち着いた雰囲気で、感じがいい。そそくさと参拝を済ませる。山門を出てみると、さきほどのおじさんは店を畳んで、もうその姿はなかった。
宿は明石寺近くにとってあるので、それほどあせる必要はない。最悪、明朝参拝すればいい。それでもおじさんの発破で頑張る気になった。まずはエネルギー補給のため、山門脇の休憩所であんパンを食べる。自販機で飲み物も買う。って、全然急いでないじゃん、これ。 16時20分、出発。 ■滑り込み・・・四十三番霊場「明石寺」(17:--/本日101.0km/累計373.2km) 地図で見ると、歯長トンネルまで、標高190mから400mへ一気の登りだ。距離もあまりないのは、それだけ急坂ということだ。 最初の強敵は脚の痛み。また30分ほど休めてしまったため、乗り始めは筋肉がつっぱってかなり痛い。それでも我慢して脚を動かす。まるで骨折後のリハビリのようだ。 すぐに急坂が迫ってくる。ギアを一番落として、とにかくこぎ続ける。しかし、それでも脚がもたない。2〜300m毎に脚を止め、1分ほど休憩。息と脚を整える。これを何回繰り返しただろう。 そのうち、だんだんコツがわかってきた。目線は低く落として、あまり先を見ないこと。先を見ると気力が萎える。次いで、なるべく脚に力を入れず、軽く回すようにしてペダルを踏む。息が切れない程度の力でペダルを回し続ける。 要するに、なるべく有酸素運動の領域で乗るということだ。自転車の乗り方の基本なのだろうが、あらためて実地で理解した次第だ。これを「いのち、だいじに」走法と名づける。ドラクエをやったことのある人はわかるだろうが。 「いのち、だいじに」走法で、それでもくたばりかけながら、歯長トンネルの入り口にたどりついたのは4時55分。おじさんの期待には5分応えられなかった。そこからトンネルを抜け、あとはひたすら下る。下りきってから明石寺まで、また少しあった。結果的に10分では無理だった。
納経は明日することにして、参拝だけでも今日中に済まそうと思う。松山自動車道の下をくぐり、明石寺の参道入り口に辿り着く。すると参道はまた激坂。今のコンディションでは歩いた方が早い。参道入り口に自転車を置き、歩きはじめる。その横を、白衣を着た自動車遍路が何台も上がっていく。これは・・・? 上がらなくなった脚を、無理して急がせる。距離にして数百mくらいか。山門に出る。すぐに納経所に行って見る。と、まだ開いていた。近づいて、恐る恐る聞いてみる。 朱印を押して納経帖を返してくれる時、
参拝が終わったあと、山門前の売店を覗く。もう店じまいの支度をしている。こうなったらついでだ。声をかけて、線香・灯明入れを買う。もしあったら、出たばかりの「四国ひとり歩き同行二人」第7版も買おうと思ったが、ここには置いてなかった。 ■ダンジョンのようなホテル宇和パークホテル(18:30/本日106.1km/累計378.3km) 無事(?)納経できて、もう急ぐ必要はないので、ゆっくり走り出す。心もち脚も軽い。 余裕ができたので、街を眺めながら走る。宇和というのはそれほど大きな町ではないが、歴史のあるところらしい。愛媛県歴史文化博物館などもある。 陽が落ちると急に冷え込んできた。半袖1枚では寒いくらいだ。宿まで急ごうと思うが、街中なのでスピードはあまり出ない。それに、宿まで、思った以上に距離があり、時間がかかってしまった。 何とか冷え切らないうちに宿にたどりつく。宇和の町外れだ。明石寺まで戻るのは大変だ。今日中に納経できてよかったと、あらためて思う。 宿は2階のレストランがフロントになっている。そこでキーをもらい、部屋に入る。このホテル、二つの建物をつなぎ合わせたような造りで、通路もちょっと複雑だ。洗濯機もホテルのロビーにあったり、サウナの入り口にあったりとわかりづらい。これはこれで面白いが。従業員は厨房も含め、3人くらいしか見ない。コストダウンが徹底しているようだ。 ホテルの夕食はバイキングだったが、食べている人の顔が美味しそうではなかったので、自転車を引っ張り出して、街中へ出かける。ウインドブレーカーを着ていったが、それでも冷える。適当な所にあったうどん屋に入る。わかめうどんとカツ丼で900円。出てきたときは「こんなに食べられるのかな」と思ったが、ペロリと食べてしまった。ちょっと食べすぎかもしれない。家族に糖尿病がいないのが、心の拠り所だ。 帰ってから洗濯。洗濯200円、乾燥200円だった。 Kさんに、JRの空席状況を調べてもらうようお願いする。わが家族は、こうしたことが全くダメなのでスキルのあるKさんに迷惑をかけることになる。当初予定では、6日に帰る予定でチケットも購入済みだ。しかし予定より1日早い行程で進んでいる。無理せず、早めに帰ることを検討しはじめた。
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