5月5日(18〜22番)
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■福山の自転車遍路氏と再会。第十八番霊場「恩山寺」(8:10/162.6km) ホテルを出たのは6時40分。国道55号を走るのだが、道を間違え市内で迷う。徳島駅の周辺をぐるぐる回って、人に聞いて、やっと見つかった。何のことはない、ホテルのすぐ近くの道だった。下調べに手を抜くとこんなことになる。30分ロス。 7時半ころ、腹が減ってきたので、コンビニを見つけて入る。都会はこれだからありがたい。チラシ寿司295円を買う。味噌汁が無料サービスだった。ラッキー。駐車場の隅に座り込んで食べる。50過ぎのオヤジのやることではないが仕方がない。白衣に免じて許してもらおう。 1時間ほど走り、国道を離れて山際の集落へと入っていく。坂をキコキコ登っていると、「恩山寺」の手前で、また福山の自転車遍路氏が走ってくるのに出会った。今度は自転車を停めて話す。お互い一人旅で、話し相手に飢えている。こもごも昨日の「焼山寺」アタックの苦労話をする。彼は僕とは別なルートでアプローチし、最後はバスを利用したらしい。しかし標高450mクラスの峠(梨の木峠)越えをしたという。「今日は23番まで行けそうですね」と言われて「いや、僕は22番くらいですよ」と答える。最後に彼のカメラで写真を撮ってあげて「また会いましょう」と言って別れた。後で、僕も撮ってもらえば良かったと後悔する。 「恩山寺」は静かな山寺。落ち着いたたたずまいだ。この辺りになると、さすがにお経もかなり板についてきた、ような気がする。しかし一度つまづくとガタガタになる。駐車場にはキャンピングカーがあった。これで回れば経済的だろうな。 8時37分、「恩山寺」を発つ。
■自転車に鍵をかけ忘れ。第十九番霊場「立江寺」(8:55/167.2km) 割とにぎやか、というか、どこか雅た集落の中にあるお寺。小ぢんまりとはしているがいい雰囲気だ。山門の前に小川が流れ、小さな石橋がかかっているのも小粋な感じだ。 参拝を終えると、一人の自転車遍路がいた。やはりミニサイクルに乗っている。お遍路にはミニサイクルが向いているのか、今の流行なのか。彼は僕の自転車を見ていた。挨拶すると、彼はニコリともせずにうなずいた。もうちょっと愛想よくしてくれてもいいのに、などと思いながら自転車に戻ると・・・鍵がかけてない。完全なかけ忘れ。自転車は道路標識に立てかけたまま。停めた時、納経帳やら経本などを取り出しているうちに忘れたのだ。 実は十番の「切幡寺」でも鍵のかけ忘れはやっていて、これで2回目。切幡寺は山寺で、お遍路しか来ないような所だが、こちらは普通の道路。危ない危ない。盗られなかったのは四国の人の人柄の良さと、運のおかげだろう。ひょっとすると自転車のお遍路は、自転車を見張っていてくれたのかもしれない。 自転車に乗って次の「鶴林寺」へ向かおうとすると、さっきの、かなりお遍路慣れした雰囲気の自転車遍路が声をかけてきた。「鶴林寺はどう行けばいいのかなあ?」そんな事を言われても、こっちだってわからない。集落を抜ければ、案内があるだろうくらいに思っていたから。 そこで、近くで立ち話をしていたおばさんにたずねた。さすが門前のおばさん、慣れたもので、的確に教えてくれた。「そこを左に曲がって、赤い橋を渡ったらもう一度左。真っ直ぐ行くと突き当たるから、そこを右へ」とのこと。 横で聞いていた彼は、曖昧な表情でうなずいた。とりあえず彼に別れを告げて、今日の難所「鶴林寺」に向かった。9時16分。
■再び激坂に出会う。第二十番霊場「鶴林寺」(11:15/181.4km) 「焼山寺」が今回一番の難所だと思っていたら、「鶴林寺」もなかなかだった。 「焼山寺」と違うのは、比較的フラットな道を進んでいくと「鶴林寺参道5km」という看板があって、いきなり急勾配になることだ。アプローチの坂がない分だけ楽といえば楽だが。 そんなこともあろうかと、「立江寺」からの途中にあったローソンで、アンパンとお茶を2本仕入れておいた。「焼山寺」の空腹がかなりこたえたからだ。「快速へんろ」の情報によると「鶴林寺」には、自販機もないようだし。 しかし、なんであんな辺鄙な所にローソンがあるんだろう。田んぼの真ん中で、周りにほとんど人家もない。車の交通量が多いのだろう、結構、繁盛していた。 ここも必死で自転車を押して上がる。とにかく「鶴林寺」手前の鶴峠まで自転車を上げないと、次の「太龍寺」にたどりつけない。不思議とやめようとか、帰ろうとかいいう気はおきない。押していれば、いつか目的地にたどりつける。一歩あるけば一歩近づく、といった安心感がある。押すこと1時間あまり。「焼山寺」同様、最後になると100m押しては立ち止まり、300m行っては休む、といった有様。日頃の運動不足がもろに足を直撃する。
途中、座り込んでアンパンを食べ、カロリー補給用のゼリー飲料2つを飲み、お茶も飲み干し、標高350m地点にある鶴峠まで、なんとか辿りついた。少し上がると遍路道の入り口があり、そこに自転車を置いて徒歩登山。自転車を降りて登る準備をしていると、横を福山の自転車遍路氏が下って行った。早いなぁ。都合4回、彼との接点はあったが、これで二度と会うことはないだろう。ほんとに一期一会だ。 1kmくらいの登りだが、この遍路道も「焼山寺」同様、急勾配できつかった。遍路道を登りきると駐車場。しばらく行くと山門がある。苦しんだ後、山門を眺める気持ちは格別だ。その分、お寺そのものの印象が希薄になるのは困ったものだが。参拝を終え、遍路道を下って12時13分、自転車に戻る。今回も自転車、荷物共に無事だ。
■ついに易きに走る。第二十一番霊場「太龍寺」(13:33/191.9km) 鶴峠から「太龍寺」までは概ね下り。多少上りはあったがたいしたことはなかった。困ったのは向かい風。意外に強い風で、下り坂でもスピードが出ない。上りは苦しい。 「快速へんろ」で、唯一の自販機と書かれたポイントで「爽健美茶」をゲット。そういえば、水分の補給は「爽健美茶」が多かった。本当は水がいいらしい。暑いときには頭にかけられるから。しかし自販機に水は見なかったな。 風と戦いながら「太龍寺」ロープウェイ入り口にたどり着く。13時5分。ここは道の駅にもなっている。とにかくエネルギー補給をということで、食堂に飛び込み「天ぷらうどん」を頼む。後の人が「親子丼」と頼むのを聞いて、親子丼にすればよかったと後悔。後悔ばかりしている。 この頃になると、飲み物、食べ物は摂れるときに摂る、と決めていた。自販機、コンビニ、食堂もないところばかりだから、熱中症とか低血糖症を防ぐにはこれしかない。 うどんを食べながらウエイトレスのおねえさんに次のロープウェイの時間を聞く。計算するとあと数分。あせってうどんをすすり込み、ロープウェイ乗り場に向かう。最初から確信犯だ。真面目な自転車遍路は、遍路道を自転車を押して上るものだが、僕の場合、ロープウェイがあって自転車も乗せられるとなると、すぐ誘惑に負ける。まあ、こんなもんだ。 太龍寺ロープウェイは101人乗りという大型で、自転車もそのまま乗せてくれる。片道分買って、帰りは自転車で下る。10分あまりでに山頂へ。下を眺めると険しい山がそびえている。ロープウェイがなかったら「鶴林寺」どころの騒ぎではなかっただろう。あらためて文明の利器に感謝。我ながらいい加減なお遍路です。 「太龍寺」に入るとさらに階段。さすがに今回は楽だ。ロープウェイがあるだけあって、「西の高野山」と言われる修行の場にしては、洗練された雰囲気だ。販売所も大きい。しかし辺りには清浄な気が満ちているような気がする。参拝をすませ、急勾配のお遍路道を下る。14時10分出発。
■今回はこれにて打ち止め。第二十二番霊場「平等寺」(15:22/205.3km) 「太龍寺」からの帰りはダウンヒル。ロープウェイのせいか、人も車も少ない。それでも楽しむなんてとんでもない。ひたすら効きの良くないカンチブレーキのレバーを握りしめて降りて行った。停まってタイヤのリムを触ってみる。熱いには熱いが、「焼山寺」の時ほどではなかった。あの時は触っていられないぐらい熱かった。 平地に降りると、小さな民宿が何軒かある集落を通り抜ける。遍路宿なのだろうか。温泉ではなさそうだ。ともあれ人里に出てひと安心。また向かい風だ。そのうえ単調な道のりで、気持ちの上で疲れた。 行けども行けども、標識類が見えない。だいたいの方角は合っているはずなのだが。自販機を見つけたので「爽健美茶」を買う。すると白いマークIIがすーっと寄って来て停まった。ご夫婦の車遍路のようだ。助手席のウィンドが降りて、運転している男性が声をかけてきた。「平等寺はこっちでいいやろか?」「たぶんいいと思いますが、私もわからなくて」と答えると、笑いながら軽く頭を下げて去っていった。僕より少し上の年代のようだ。 しばらく走ると、軽トラックに乗って停まっている女性に出会った。道を尋ねると、ちょっとうんざりしたように、それでも親切に教えてくれた。さっきのマークIIにも聞かれたのかもしれない。しかし、おかげで「平等寺」への道がわかった。すぐ近くまで来ていたのだ。 比較的豊かそうな集落の中に「平等寺」はあった。駐車場に自転車を停めていると、果物売りのおばちゃんと、歩きのお遍路が話していた。どうやら果物のお接待を受けたらしい。ちらっと目が会う。温厚そうだが、隙のない感じの若いお遍路だった。いや、こっちの目つきが悪かったのかも。 山門を入ると、布を着たお地蔵さんが並ぶ。地元のお寺の地蔵堂でもよく見かけた姿だ。懐かしい。学生時代は地蔵堂でデートしたこともある。昔から、こんな風景が好きだったのかも。
参拝を終え、納経帳に印をもらうと15時40分。納経所のお庫裏さんに二十三番までの距離を聞いてみる。車なら30分くらいだと言う。自転車で行くというと、ちょっと首をかしげて「難しいよ」と言う。距離的には20km近くある。平地なら問題ないが、峠を越えて行くとなると、ちょっと無理だ。 当初の予定では、もし今日二十三番「薬王寺」が参拝できなくても、近くまで行って宿を探し一泊して、翌日回るつもりだった。しかし天気予報では翌日は雨。それも一部大雨とか。雨は苦手だ。ブレーキも怖い。ここいらが潮時か。結局、今回は二十二番で打ち止めということにする。 ふと福山の自転車遍路氏はどうしただろうかと思う。彼は二十三番までチャレンジする気満々だった。間に合っただろうか。僕も朝、30分ロスしなければ・・・でもダメだろうなぁ。 納経所を出ると、歩きのお遍路が数人かたまって話をしている。先ほどのお遍路もいる。年齢はまちまちだが、比較的若い人が多かった。話に加わりたかったが、何故か気が引けて素通り。歩きの人には妙なコンプレックスを感じてしまう。なんなんだろう、これは。 15時50分、徳島市に向けて出発する。
<宿> また観光案内所のお世話になる。<ビジネスホテル>(18:45/245.6km) 再び徳島駅まで戻る。 国道55号を走るが思った以上に時間がかかった。40kmを3時間。我ながら遅い。もっとも阿南市でコンビニに寄り、食料と休養をとったりしたこともあるが。駐車場でミックスサンドとミルクのおやつ。四国に来て初めてパンを食べる。あ、そうでもないか。「鶴林寺」でアンパンを食べたっけ。随分長い間四国に居たような気がするが、たった3日半だ。それだけ時間が濃密だったのだろう。 国道55号は、小松島市でトンネルをくぐる。初めてのトンネル体験で不安だったが、道路が新しいだけあって歩道も完備されていて、安心して走れた。 国道も初めは遠慮しながら歩道を走っていたが、段差と起伏で疲労が激しい。思い切って車道を走る。邪魔だろうけど、一応、巡航速度は時速27kmくらい出ているし、「南無大師遍照金剛」の白衣に免じて見逃してもらおう。ちなみに道交法では、軽車両は車道を走らなければならない。歩道通行可の歩道は、あくまでも通行可なのだ。 淡々とこぎ続け、やがて徳島市内に入る。6時半頃、また徳島駅前の「観光案内所」へ。明日は自転車をかついで帰らないといけないので、なるべく近いホテルを紹介してもらう。「あんまりきれいじゃないけど、いいか」と念を押されて5000円のホテルを紹介される。別にホテルに泊まりに来ているわけではないので、問題はない。 そのあと雑談になってどこから来た、という話になった。名古屋からだと言うと、名古屋まで徳島バスの直行便があるよ、と言われた。これは知らなかった。 「明日、そのバスで帰ろうかなあ」というと、その場ですぐに、徳島バスに電話をかけてくれた。バスがあるのは5月5日まで。次は7月22日から夏休み期間中だという。万博目当てらしい。しかし京都駅までならオールシーズンあると言う。自転車が乗せられるかについても、また電話をかけなおして聞いてくれた。折りたためば、つまり来た時と同じようにすればOKとのこと。料金も安く、時間もほとんど変わらないため帰りはバスに決めた。行きもバスにすれば良かった。残念。 チェックインして、まず自転車を分解する。といっても前輪とペダルを外し、ハンドルを緩めて向きを変えて固定するだけだが。そして輪行袋に収納。これで明日の準備は半分終わった。 ホテルで食事を食べさせてくれる所を尋ねると、やっぱり昨日の「えび一」を紹介してくれた。というわけで、また「えび一」で食事。2日目ということもあって、カウンター越しにちょっと話をする。60年配の親父さんと40歳くらいの息子さんが板さん。万博の話や名古屋のホテルの話などをする。値段、味、雰囲気ともいい感じだ。地元にあったら贔屓にしたい店だ。 今日も生ビールとカツオのたたき。それに筍の芥子あえ。美味しかった。
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