自転車なお遍路イメージ
2005年春
はじめに
5月2日(往路)
5月3日(1〜11番)
5月4日(12〜17番)
5月5日(18〜22番)
5月6日(復路)
2005年夏
7月15日(往路)
7月16日(22〜23番)
7月17日(24〜27番)
7月18日(28〜32番・復路)
2006年春
4月29日(往路)
4月30日(32〜36番)
5月1日(37番)
5月2日(38〜39番)
5月3日(40〜43番)
5月4日(44〜45番)
5月5日(46〜51番・復路)
2007年春
4月27日(往路)
4月28日(51〜58番)
4月29日(59〜64番)
4月30日(65〜66番)
5月1日(67〜76番)
5月2日(77〜83番)
5月3日(84〜88番)
5月4日(1番・復路)
2007年冬
12月8日(高野山)

●5月1日

■今日は朝から雨

「観音寺サニーイン」出発

朝5時30分起き。昨晩買っておいたサンドイッチと牛乳で朝食。雨が降っているので、上下に分かれたレインウェア、レイングローブ、シューズカバーに、ヘルメットの下には防水スプレーをたっぷりふりかけたキャップをかぶる完全装備だ。この恰好だとサイクリストなのかお遍路なのか区別がつかない。6時15分にはホテルを出る。

大興寺までは思ったよりも遠い。しかも軽い登りで逆風。もちろん雨。これは無心にペダルを踏むしかない。まだ早いので交通量が少ないのがせめてもの救いだ。

40分ほど走って、わき道にそれる。静かな田園の中を走るが、雨でモノトーンの景色がそれなりに美しい。やがて深い緑の中に、大興寺の門が見えてきた。

■雨の中の札所も趣がある

六十七番霊場「大興寺」

(07:01/当日11.0km/累計263.7km)

大興寺の山門の前は田んぼだ。そして門の前には、短い石橋がかかっている。雨だからこそだろう、風情を感じさせる。自転車を山門の脇に持っていき、なるべく濡れないような場所に停める。

雨に煙る大興寺。
小橋があるのも粋な感じ。

山門を入ると、目の前に長い石段が現れる。濡れていて滑るのが怖い。数十段程度だが、長く感じた。登りきるとそこに伽藍が並ぶ。本堂の手すりは補修されたばかりのようで、白木の色もまだきれいだ。

参拝しているうちに、雨はやや小降りになる。これは意外に早くあがるかもしれない。

徐々に雨は小降りになってきた。

ちょっと気を抜いて石段を降りていたら、枯葉を踏んでズルッと滑り尻餅をつきそうになった。腰でも打ったら自転車にも乗れなくなる。危ない危ない。手すりがあって助かった。

7時35分出発。

■外国人お遍路と初めて出会う

六十八番霊場「神恵院」・六十九番霊場「観音寺」

(08:15/当日22.1km/累計274.8km)

再び来た道を観音寺の市街地目指して走る。次の観音寺・神恵院は、停まったホテルから1kmほどの所にある。歩きの人の、打戻りを嫌がる気持ちがよくわかる。小降りになってきたとはいえ、まだ雨は降り続いている。

標識に従って財田川に出て、川沿いに少し走ってから中に入り、ちょっと登ると山門が見える。後で地図を見たら、どうも遠回りのコースだ。途中、歩きのお遍路に出会い頭で挨拶したら、なんと白人の青年だった。外国人のお遍路は始めて見た。

ここは2つの札所が一つになった、変則の札所だ。山門と納経所は一つだが、本堂と大師堂は2つずつある。便利だという人もいるようだが、僕はどうも馴染めない。

山門も2つの札所の共用だ。

まずは神恵院に参拝する。ここの本堂は、香園寺のような建築だ。香園寺よりもモダンかもしれない。特に内部は現代建築の写真集にでも出てきそうだが、なんだか殺風景だった。ここでお参りし、大師堂へ回る。大師堂は、普通のお堂だ。

モダンな神恵院の本堂。
永代供養塔のようでもある。
本堂の内部。ガラスと
コンクリートがめだつ。

次いですぐ隣にある観音寺の本堂、大師堂へお参りする。こちらはごく普通の建物だ。別に建物にお参りしているわけではないとは判っているが、やはりコンクリートやガラスは、札所には似合わないと思う。

観音寺はごく普通の建物だ。

参拝を終えて納経所へ。納経してくれた女性は親切で、道も丁寧に教えてくれた。横に15kgはあろうという大荷物を抱えたお遍路がいた。すごい体力だなぁと思って顔を見たら、先ほどの外国人のお遍路だった。

8時50分、出発。

■思ったより早く雨があがる

七十番霊場「本山寺」

(09:41/当日32.1km/累計284.8km)

本山寺までは、川沿いにまっすぐいけばいい。雨はもう止んで、きれいに晴れ上がってり、代わりに風が強くなってきた。雨具はまだ濡れているので、しばらく走って乾かすことにする。

前を歩きのお遍路が歩いていた。風で雨具がはためいている。挨拶をしたら、なんと仙遊寺で同宿だった青年N君だった。相変わらず健脚だ。ちょっと話をして別れる。しかし調子に乗って走っていて、途中で川が分かれているのを見逃していたため、とんでもない方へ進んでしまった。

あわてて付近の人に道を聞き、なんとか本山寺にたどりつく。駐車場に自転車を停め、乾いた雨具を片付けはじめる。すると近所の人かタクシーの運転手か、おやじさんがいろいろ話しかけてくる。どこから来たから始まって、名古屋駅のきしめんが美味しいなど、いろいろ話してくれる。途中で失礼して、参拝に向かう。立派な五重塔が目を引く。

朝とは打って変わって
青空が広がる。

本堂で参拝していると、先ほどとはまた別の外国人お遍路がきた。そして見事に般若心経の読経を始めた。相当上手だ。ちょっと感心してしまった。

10時25分出発。

■きつい石段もなんのその

七十一番霊場「弥谷寺」

(11:50/当日45.2km/累計297.9km)

国道11号を走る。雨はすっかり上がって快晴だ。少々暑いくらいだ。のどかな田園風景の中を走る。途中で県道に入り、弥谷寺に向かう。

山のふもとから望むと、中腹あたりに堂宇が見える。ちょっと上がらないといけない。憂鬱になる。この何日かで、すっかり脚に疲労がたまっている。休むことなく使っているので、だんだん疲労のメモリー効果が現れてきて、おかげでちょっとした坂でも脚の筋肉が悲鳴をあげる。情けないが、50半ばの通勤サイクリストの脚なんてこんなものだ。

弥谷寺への上り口にお堂があり、その横で足湯を使うことができる。一瞬、楽になるかもと考えたが、却って筋肉が緩んだら目もあてられないので、写真だけ撮って進むことにする。

なかなか手入れの行き届いた休憩所だった。
向こう側に見えるのが足湯。

弥谷寺への坂は、短いが比較的急だ。ペダルを使うのはあきらめて、押して登る。10分ほど押すと、「ふれあいパークみの」という道の駅があった。ちょうど飲み物も切れたので、そこの自販機でお茶を買って飲む。休んでいると、タクシーの運転手が話しかけてきて、激励してくれる。この道の駅から弥谷寺の駐車場まで、短い距離だがタクシーが出ているらしい。

再び自転車に乗り、しばらく行くと急坂だ。降りてしばらく押すと石段の下に出た。ここに自転車を停める。自動車もここまで。後は急で長い石段を上る。500段くらいとか。上から降りてきた年輩の歩きお遍路が「これからが辛いぞ」と脅かしていく。

晴れていたので感じなかったが、
雨の弥谷寺はかなり憂鬱な風景だとか。

石段は確かにきついが、急坂を自転車を押すのに比べたらはるかに楽だ。というわけで、比較的軽快に上ることができた。途中に茶店がある。有名な俳句茶屋だ。帰りに寄ろうと思う。

弥谷寺の本堂は、靴を脱いで参拝する。正座して参拝したのは、ここが初めてだと思う。すぐ横には、お大師様が子供の頃勉強したという岩屋が、ガラス越しに見える。

外観からは想像できない、
きらびやかな本堂内部。

「死者の集まる霊場」といわれているので、どれほど不気味かと思ったら、快晴の空のもと暗さは微塵もなかった。しかし後で俳句茶屋のおかみさんに聞いたところによると、今朝のような雨の日はたまらなく憂鬱な風景になるという。

下りる時、またN君とすれ違う。驚異的な脚だ。

■おかみさんと話し込む

「俳句茶屋」

俳句茶屋の前には縁台も出ていて、何人かのお遍路が寛いでいた。僕は俳句の短冊が見たかったので中に入った。男性が一人、注文を取りに来る。うどんを頼む。うどんを持って出てきた男性は、「それじゃこれで」と奥に挨拶して出ていった。その後を「ありがとうね」と言いながらおかみさんが出てくる。何のことはない、近所の常連さんだったのだ。

昔のテント劇場のように、緑陰の中、
浮かび上がってみえる俳句茶屋。

それからおかみさんと話をする。僕より少し年上だが、ほとんど同世代。三丁目の夕日的な話題で話が会う。それから、おかみさんがお遍路の途中に立ち寄ったのがきっかけで、この店を引き受けることになったいきさつや、先代のおかみさんの苦労話など、話題はつきない。ちょっと盛り上がりすぎで、話を打ち切るきっかけを失ってしまった。話していたいのは山々だが、まだ予定があるし。

困ったなと思っていたら、折り良くN君が入ってきた。それを潮に、失礼することにした。おかみさんは「今度は奥さんと一緒に来てね」と言って見送ってくれた。テレビで見るより、ずっとチャーミングなおかみさんだった。

13時15分、出発。

■反対方向に走る

七十二番霊場「曼荼羅寺」

(13:49/当日52.8km/累計305.5km)

弥谷寺から坂を下り国道に出る。国道をしばらく走ってからわき道に入る。さらに右折するとすぐそこが曼荼羅寺だったのだが、なぜか行き過ぎてしまった。

そこで通りがかりの老人に道を尋ねた。ちょっと迷ってから、「その山裾の道を左に行くとすぐだよ」みたいなことを言う。へんだな、看板の矢印は反対方向だったような気がしたが。でも地元の人の言う事だし・・・と走ってみたが、どうもおかしい。再度戻って、よく見直すと、やっぱり反対方向だった。どうやら甲山寺と間違えて教えてくれたようだ。

まっすぐ走ると曼荼羅寺の駐車場に行き着く。そこに自転車を停めると、お茶屋さんがあって、お茶をお接待してくれた。近くには自転車遍路の自転車も停まっている。そこから札所に入ろうとすると「正門からお入りください」みたいなことが書いてある。そうか、裏の入り口なのか。あらためて自転車に乗って山門まで行く。

山門も、大きすぎず、
小さすぎずのサイズ。

ちょっと粋な雰囲気のする札所だった。休憩所などもきちんとしていて、居心地がいい。居心地の良さは人それぞれだろうが、僕にとってはいい札所だった。なかなかそんな印象を受ける札所は少ないのだ。

僕には居心地のいい札所だった。

14時10分出発。

■参道の石像、石柱がにぎにぎしい

七十三番霊場「出釈迦寺」

(14:13/当日53.2km/累計305.9km)

曼荼羅寺から出釈迦寺は、ほんの500mほど。ご町内といっていい。ただ上り坂になっているので、疲れた脚にはあまり優しくはないが。最後は恥も外聞もなく、押して上がる。

出釈迦寺に向かう参道には、さまざまな石像や石柱が立ち並ぶ。これも初めてみる風景だ。こうして見ると、それぞれの札所が、いろんな工夫を凝らしているのがわかる。

参道の左側は彫刻の公園のようだ。

出釈迦寺の入り口は武家屋敷のような佇まいだ。中も、落ち着いた雰囲気だ。広さは曼荼羅寺とあまり変わらない気がするが、全く雰囲気が違うのが面白い。

全体に落ち着いた雰囲気。

ここで今日の宿の予約を入れることにする。当初予定どおり善通寺の宿坊に予約を入れる。空いてはいたが「夕食は5時半からですから、それまでに必ず」とくどいほど言われる。5時半から夕食なんて病院じゃあるまいしと思ったが、とりあえず「はいはい」と応えておく。

14時43分、出発。

■ストイックな趣の札所

七十四番霊場「甲山寺」

(14:56/当日56.4km/累計309.1km)

この辺は、地図を見ながらというよりは、道路の案内標識を見ながら進む。道は徐々に市街地に入っていく。といっても、まだのどかな風景だ。

甲山寺は工事中なのか、フェンスで囲まれている。おまけに門の前は玉砂利が敷き詰められていて、あやうく転びそうになった。

地味な雰囲気で、禅宗の寺院のような佇まいだ。真言宗善通寺派の寺院だが。お参りを終えて帰ろうとすると、N君に出会った。どこまでも健脚だ。今日の宿のことなどを話し、別れる。我ながら、そそくさと参拝を済ませたという印象だ。

15時15分出発。

■「お大師音頭」(仮称)が鳴り響く

七十五番霊場「善通寺」

(15:35/当日58.2km/累計310.9km)

なんとなく走っているうちに、善通寺に行きついてしまった。最初に入った所にあったのは御影堂、いわゆる大師堂だ。とすると本堂は反対側だ。露天商が立ち並ぶ通路を、自転車を押して本堂側に行く。

本堂側は随分にぎやかだ。何かイベントでもやっているらしい。看板を見ると「真魚まつり」とかをやっているらしい。お大師様の誕生イベントか。それはいいが、ありがたや節ばりの「お大師様、ありがたや」みたいな演歌はなんとかならないものか。それも何曲もあるらしい。格調がどんどん低くなるような気がする。後で宿坊で、歌の題名などを聞いたが「あれは業者さんのやっていること。当方は一切関知しておりません。わかりません」とのこと。なんだかなー。どの曲も「お大師様」を、くどいくらいリフレインしていたのに。それとも、仏教には冒涜という概念はないんですかね、善通寺さん。

あきれたため、善通寺でシャッターを押したのは1回だけだった。

唯一の善通寺の写真。

本堂の中で尼さんに、どこで参拝すればいいのか尋ねる。すると「どうぞ、本堂の中で参拝してください」と言われる。ありがたい。遠慮なく参拝させていただく。読経が終わって出ようとすると、尼さんが「お接待」と言って、紅白餅をくれた。イベントよりも、こうしたさりげない行為の方が、よっぽど心を打つ。

次いで自転車を押して御影堂へ。納経をすませて、宿坊に入る。時間がまだあるので、荷物だけ降ろして、次の金倉寺へ回るつもりだ。宿坊のフロントで道を聞くと、丁寧に教えてくれる。しかし「夕食は5時半」と念押しされる。そこを何とか、と言って交渉すると6時までは何とか、という回答を引き出せた。

荷物を置いて、金倉寺に向かう。出がけに御影堂近くでN君に会う。

16時6分、出発。

■金色の大黒天が印象的

七十六番霊場「金倉寺」

(16:26/当日62.6km/累計315.3km)

善通寺宿坊で頂いた、カラープリンター出力の地図をもとに走る。夕方の通勤ラッシュ(?)にぶつかり、道路は込んでいる。といっても名古屋ほどではない。なるべく邪魔にならないように気をつけながら、車道を走る。

幹線道路から少し住宅街に入ったあたりに金倉寺はある。随分広い札所だ。山門脇に自転車を停め、中に入る。時間が心配だったので、先に納経をしてもらう。納経所の係も、落ち着いた年輩の人ばかりだ。これはこれで、「ありがたい」感がある。

ちょっと小さいが、
それでも目立つ黄金の大黒様。

その後、落ち着いて参拝する。本堂脇の、黄金の大黒天像が印象的。触ると金運が向くのかな。俗世の住人である僕は、当然、しっかり触ってきた。

夕暮れの札所も趣があって好きだ。

16時47分出発。

■温泉でくつろぐ・・・暇もない

「善通寺」宿坊

(17:06/当日66.7km/累計319.4km)

宿坊で駐輪場の場所を聞き、カギを2つかけて停める。次いで部屋に入り、簡単に荷物を片づけてから、て風呂へ行く。「5時半」には間に合わないが、まずは汗を流そう。15分ほどで体を洗い、ほとんど湯につかることもなく出る。後で入りなおせばいい。タオルを部屋に置いて食堂へ入る。

意外と空いていて20人ぐらいだろうか。歩き系(自転車含む)は片隅に席がしつらえてある。僕の斜め前は三重県から来た男性のTさん。次いで隣に東京から来た女性のKさん、前には兵庫県から来た女性のMさんが座った。Mさんは、甲山寺で見かけた女性だ。しかし男女をたすきがけに配置するなんて、善通寺さんも考えているんだかいないんだか。僕以外の3人は歩きだ。

まるでホテルのレストランのようだ。

料理はなかなかだ。5800円にしてはお得だろう。もちろんご飯はお代わり自由だが、疲れると逆にあまり食べられない。茶碗2杯だけにしておいた。

あっという間に食べて
しまったので実感はないが、
こうして見るとなかなか豪華なメニューだった。

みんな軽くビールなどを飲んで、ちょっと話をして解散。というか、食堂にはいたたまれない。やはり7時には食堂も終了なのだろう、誰もいなくなる。まるで公営の食堂みたいだ。

僕はその後、洗濯物を洗濯機に放り込んだ後、ゆっくり温泉に浸かった。脚の疲れを少しでも軽減するためだ。その後、部屋でワンカップを一杯飲んで気持ちよく就寝。

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