自転車なお遍路イメージ
2005年春
はじめに
5月2日(往路)
5月3日(1〜11番)
5月4日(12〜17番)
5月5日(18〜22番)
5月6日(復路)
2005年夏
7月15日(往路)
7月16日(22〜23番)
7月17日(24〜27番)
7月18日(28〜32番・復路)
2006年春
4月29日(往路)
4月30日(32〜36番)
5月1日(37番)
5月2日(38〜39番)
5月3日(40〜43番)
5月4日(44〜45番)
5月5日(46〜51番・復路)
2007年春
4月27日(往路)
4月28日(51〜58番)
4月29日(59〜64番)
4月30日(65〜66番)
5月1日(67〜76番)
5月2日(77〜83番)
5月3日(84〜88番)
5月4日(1番・復路)
2007年冬
12月8日(高野山)

●4月29日

■意外な奇縁

「仙遊寺」朝のお勤め

朝5時30分起き。6時からのお勤めにそなえて30分前に起き、身支度を整える。朝は早いが、たっぷり寝たので気分はいい。

朝の仙遊寺から「下界」を望む。

6時になり、本堂に集まる。少しひんやりするが、寒いというほどではない。最初に「理趣経」の読経が行われる。初めて聞いのだが、非常に音楽的なお経だ。特に今回は女性も読経に加わっているので、華やかな感じ。例によって意味不明だが、「空海の風景」などに書かれている通りだとすると、内容もスタイルも、なかなか官能的だ。

この本堂で朝のお勤めがあった。

お経が終わったあと、ご住職が登場した。若々しい感じで、僕と同年輩くらいか。法話といより何かのミーティングのようだ。参加者一人一人に、どこから来たのかなどと聞いている。僕の番になった。
「どちらから?」「名古屋から来ました」「名古屋はどこ?」「○○区です」「私も生まれは満州だけど、育ったのは名古屋の□□区ですよ」。
あれっ、僕の育った所と同じだ。
「□□区のどちらですか?」「△△△」「僕もその近くに住んでいました。T小学校でした」「じゃあS中学校?」「そうですS中」「・・・・」

僕の方が老けて見えるので、ご住職は僕を先輩だと思ったらしいが、生まれ年を言うと僕の2年先輩だった。ということは、小中学校時代、どこかですれ違った可能性もあるわけだ。

他にも参加者が沢山いたので、話はここで終わったが、名古屋の小中学校の先輩後輩が、四国霊場の住職と遍路として出会う。うーん、こんなこともあるのだ。

この後、ご住職が取り組んでいる「へんろ道の世界遺産化」の話や地域興しの話などがあってお開きに。7時20分だった。

朝食は玄米粥と精進料理。歩きの人たちはお粥だけでは足らず、用意された白米もめいっぱい食べてそそくさと部屋に戻って行った。

僕も用意を整え、8時頃出発。

■念珠は忘れる、写真は撮り忘れる

五十九番霊場「国分寺」

(08:35/当日10.1km/累計89.9km)

朝一番のダウンヒルはさすがに涼しい。アームウォーマーをつけて坂を下る。案内表示どおり降りていたら、また栄福寺近くまで戻ってしまった。途中で曲がらないといけなかったのだ。

栄福寺前の売店で道をたずね、また途中で道をたずねて、何とか軌道修正に成功。まだ朝だと言うのにすっかり汗をかく。アームウォーマーも外す。

のどかな郊外を走り、国分寺はすぐ近くだった。お参りしようとして気がついた。念珠がない。仙遊寺に忘れてきたようだ。あちゃー。仙遊寺には後で連絡をとることにして、納経所で念珠がないか聞いてみた。

「置いてませんな。61番さんに行ったらあると思いますけど」。

40歳ぐらいのお坊さんだが、木で鼻をくくったようなもの言いだ。仕方ないので念珠なしでお参りする。

そそくさと参拝を済ませて、61番の香園寺に向かう。今日は60番横峰寺を最後に回して、まず61番から64番の前神寺まで打ってしまう計画だ。

9時1分、出発。走り出してから気づいたが、写真を撮り忘れた。

※念珠は、仙遊寺さんに連絡したら郵送していただけました。ありがとうございました。

■奇異ではないが味気ない

六十一番霊場「香園寺」

(10:41/当日32.6km/累計112.4km)

国分寺から香園寺までは結構距離があった。国道196号をひた走る。連休だけあって交通量もあまり多くない。途中、コンビニなどで休憩をいれながら香園寺に到着。

話には聞いていたが、たしかにモダンな寺院だ。といっても他の札所とは違うだけで、それほど大きな違和感はない。都市部の大きなお寺の納骨堂などは、もっと奇抜なデザインがある。ただ全体に味気なく、写真を撮る気もしないのは事実だが。

といっても一枚ぐらいは撮った。

まずは念珠を買いに、本堂脇の納経所に行く。窓口で尋ねると、玄関から納経所の中に入れと言う。中が売店になっているのだ。玄関で靴を脱いで、畳敷きの売店に入る。先ほど相談した窓口の男性が、販売員のように横についていろいろ説明してくれる。

前の念珠が気に入っていたので、また同じものを買う。2500円。なお、接客という点では、薬王寺の売店の方が洗練されていたような気がする。

本堂に戻り、階段を上って2階へ。ここにご本尊とお大師さんがいる。幸い、ほとんど誰もいなかったので、ゆっくりお参りができた。これで団体でもいたら、声が反響してさぞかし賑やかだったろう。

11時14分出発。

■こぢんまりとした札所

六十二番霊場「宝寿寺」

(11:23/当日33.3km/累計113.1km)

香園寺意から宝寿寺までは、ほんのひとっ走りだ。196号沿いに札所がずらりと並んでいる。こぢんまりした規模で、親しみやすい雰囲気だった。

しかし、あまり印象にのこっていないのも確か。

写真は何枚も撮ったが、
印象にはあまり残っていない。

11時44分、出発。

■喫茶店で、歩きのお遍路と昼食

国道沿いの喫茶店

(12:00/当日34.8km/累計114.6km)

走っているとちょうど喫茶店を見つけたので、ここで昼食にする。

入って「ランチ」と注文したら「今日はランチはありません」といわれた。そうだ、祝日だった。あらためてミックスフライ定食を頼む。

食べ始めると、歩きのお遍路が入ってきた。白衣を着た僕の姿を認めると、人なつっこそうな笑顔で斜め前のテーブルに座った。挨拶を交わす。東京から来た人らしい。後で名前をSさんと知る。僕より多少年輩くらいか。中小企業のおやじさん、といった雰囲気だが、実際にどうかはわからない。

話好きらしく、食べならがいろいろ話す。Sさんは今日はこのまま横峰寺手前の温泉宿に入ってゆっくりするそうだ。前日がかなりハードだったらしい。

僕が先に食べ終わり、吉祥寺へ向かう。12時30分出発。

■成就石

六十三番霊場「吉祥寺」

(12:45/当日36.4km/累計116.2km)

吉祥寺も喫茶店からすぐ近くだった。参拝し終わると、既にSさんも着いていた。

ここも庶民的な印象の札所だ。

ここには「成就石」という真ん中に50cmぐらいの穴のあいた石がある。願い事をして、目をつぶって金剛杖をこの穴を通すことができれば、願い事がかなうという。Sさんは几帳面な性格らしく、資料を打ち出して見せてくれた。そして試しにやってみる。見事、杖は真ん中を通った。

すると昨日仙遊寺で泊まったメンバーが何人か入ってきた。そのうち大阪から来た男性が、やはり「成就石」にチャレンジ。大の大人が、楽しそうに杖を振り回している。杖のない僕は眺めているだけだったので、適当に引き上げることにした。

成就石には何人もチャレンジ。

出る前にSさんが、横峰寺までの道を納経所で聞いて教えてくれた。Sさんにはお礼を言い、前神寺経由で向かうことを告げて別れた。

13時出発。

■確かに神社の雰囲気も

六十四番霊場「前神寺」

(13:17/当日39.5km/累計119.3km)

前神寺までは、多少距離はあった。とはいっても知れているが。横峰寺への分岐を通り越してしばらく行くと石鎚神社がある。前神寺はこの石鎚神社の別当寺だったと思う。途中、石鎚神社へも参拝していこうかと思うが、上り坂の上にあるので、エネルギー節約と言い訳をして引き返す。

前神寺は、参道が長く、やはり神社のような雰囲気がある。庭はとくに凝ったものではないが、周りが濃い緑に覆われている。

本堂は神社のような佇まい。
大師堂は存在感があった。

突き当たりにある本殿と、石段の上にある大師堂に参拝。全体にシンプルな雰囲気で、寺院ではあるが、神社のような雰囲気も感じる。

13時42分、出発。

■横峰寺は徒歩でクリア

六十番霊場「横峰寺」

(16:42/当日52.0km/累計131.8km)

さて今日のハイライト、横峰寺アタックだ。

いろんな人の情報によれば、焼山寺(僕の場合は逆打ち・打戻り)ほどきつくはなさそうだ。それでも標高は745mある。まずは有料道路の料金所を目指すことにする。ここまでは僕でもなんとか自転車で行けそうだからだ。

まずはSさんに教わった分岐から横峰寺の方向に向かう。道路はそれほど急傾斜ではなく、ゆるやかに上に登っていく。毎度のことながら坂は本当に苦手だ。途中、何回か脚をとめつつ、ゆっくり登っていく。

最初は坂も優しい。

途中、GTのマウンテンバイクを何台か載せたトラックが停まっていた。運転手の方を見ると、なぜか目をそらせる。誰も乗せてくれなんて言ってないだろうに、根性の狭いやつだなー、などと考えるのも、実は気がまぎれていい。

しばらくすると、そのトラックの左右に2台、自転車がつかまって登ってきた。対向車がいるのに無理して突っ込んでいくので、へんな渋滞がおきている。学生さんかな?自動車も自転車も運転はルールだけではなく、マナーも大事ですよ。

しばらくすると道が二つに分かれている。横峰寺行きのバス停がある。そこに歩きのお遍路が一人。後ろから挨拶すると、なんとSさんだった。うーん、歩きとそんなにスピードが変わらないのか。

「横峰寺手前の温泉で泊まるんじゃなかったんですか?」
「その温泉がこのあたりなんだけど、どっちの道へ行っていいか迷ってるんだよ」
なるほど地図を見ると、どちらとも取れる。では、機動力のある自転車の出番だ。
「ちょっと行って見てきます」
右手の険しい坂を登ってみた。200mほど行くと建物が見えてきた。やがて看板も見えた。『温泉旅館京屋支店』
すぐに引き返してSさんに教える。そしてSさんと別れて、僕はもう一方の道へ。

道はすぐに下り始める。ダム湖の方に向かっているようだ。5分ほど下りたが、そこでストップ。もう一度地図を見直す。しまった、さっきの京屋支店の方の道を行けばよかったのだ。調子にのって間違えてしまった。こういうときの上り坂は、よけい堪える。

再び三叉路に戻り、京屋支店の方向へ走る。疲れたので、京屋の売店でジュースを買って一休み。ついでにフロントで、今日、泊まれそうか聞いてみる。おかみさんは「大丈夫、泊まれますよ。ぎりぎりになっても食事もご用意できます」と言ってくれた。Sさんも、ひょっとして僕が飛び込みで来るかもしれないと、伝えておいてくれたようだ。ここでSさんの名前を初めて知った。

多分泊まることは間違いないのだが、なぜか後で電話することにする。おかみさんは「遅くなってもいいから」と言ってくれた。

旅館を出て坂を上る。途中一度下りがあるが再び上り、15時16分、ようやく有料道路の料金所に着く。前神寺から1時間半かかっている。

料金所のおやじさんにお願いして、自転車を置かせてもらう。最初、横に置いていたら「4時半過ぎると無人になるから、外から見えないように裏に置いた方がいいよ」と、裏側に置かせてくれた。ありがとうございます。

料金所を過ぎたあたりの道。
まだ倒木なども残っている。

ここからは歩きだ。今履いている靴は、ペダルと靴を固定するための金具が、足の裏の一番力のかかる部分に着いている。力を入れて坂を登ると、ズルッとすべるので要注意だ。そのため、歩きながら杖になりそうな木ぎれを探す。しばらく歩くと、ちょっと捻じ曲がった魔法使いの杖のような、手ごろな木の枝が落ちていた。

お遍路ながら、杖を使うのはこれが初めて。最初は要領がつかめず、腕や肩が疲れる。しかし慣れてくると、やはり快適だ。ただ、今は右肘を傷めているので、右だけで突いていると肘が痛くなってきた。そのため、左右交互に持ち替えて使う。

僕が助けてもらった「金剛杖」。

そういえば、ここを歩いていて、今回最初のお接待を受けた。横をクルマがすり抜けようとして、急に停まった。何かと思って目を上げたら、ワンボックスが停まっていて、中でなにやら押し付けあっている。やがて手前に座っていた女性が、文旦を一つ渡してくれた。「どうぞ」。
受け取って思わず手を合わせた。しかし納め札を渡す余裕はなかった。ありがとうございました。とても美味しかったです。

30分ほど歩いていると、反対側から朗々とお経を唱えながら歩いてくるお遍路がいる。挨拶をすると優しい顔で挨拶を返してくれる。後どれくらいか尋ねると「まだ2.5kmぐらいありますよ」とのこと。お礼を言って別れる。

最後の三分の一ほどは
こんな坂だった。

それからさらに30分近く歩く。丁石があって、残り1.2kmとある。先ほどのお遍路は、どうやら挫けさせないように、距離を短めに教えてくれたらしい。後日再会したこのお遍路、Mさんに確かめると果たしてその通りだった。

やがて歩きのへんろ道の案内があり、それに従って上がっていく。すると向こうから一人のお遍路が歩いてきた。
「やあ」「どうも」。
昨日、仙遊寺の食堂で隣に座った青年N君だ。速いなー。
「まだ遠い?」
「ちょっとありますよ」
「5時までに着けるかな?」
「ぎりぎりかな?頑張ってください」青年はそう教えてくれた。
お礼を言ってすれ違った後、彼は下から声をかけてきた。
「大丈夫です、近いですよ!」
性格のいい子だなと思う。

時計を見ると16時半。頑張って杖を突いて歩く。靴の金具でずるずる足を滑らせながら登っていくと、ようやく道が下りとなり、下にお堂が見えた。到着だ。16時42分。

本堂を見て、とりあえず一安心。

時間がないので、まずは納経所へ行く。ちょうど納経のお坊さんが無線で話をしていた。 「こちら16号。1号さん、ご苦労様です。明日も宜しくお願いします」 16号というのが納経所で、1号というのが駐車場のようだ。なんだか昔のテレビドラマ『コンバット』を思い出した。

次いで宿の予約。これから頑張って当初予定の新居浜の向こうまで走る元気はない。先ほどの京屋支店に予約を入れる。

最後に本堂と大師堂にお参りする。順序が逆だが、まあ、許していただこう。17時10分、横峰寺を後にする。

横峰寺は、隅々まで
よく手入れされていた。

下りは早い。40分ほどで料金所まで下りる。まず短い間だが相棒になってくれた金剛杖を草むらの中に静かに置き、合掌する。よくお礼を言ってから立ち去った。そして料金所の裏をのぞく。自転車は無事だ。そこからペダルを踏んで20分ほどで宿に到着した。

■居心地のいい温泉宿

温泉旅館京屋支店

(17:10/当日56.6km/累計136.4km)

宿に入ると、おかみさんが部屋に案内してくれた。と、その部屋には既に住人が。
「あら、誰か入ってる」
手違いがあったようだ。あらためて別の部屋に案内される。

食事が18時半からなので、すぐに風呂に入る。汗だけ流し、食堂に行く。隣は60年輩のご夫婦。その隣に、朗々と読経していたMさんの顔が見えた。Mさんにはご夫婦ごしにお礼を言う。それからご夫婦も交えてちょっと話をする。偶然ながらご夫婦とMさんは、共に山口県から来たそうだ。

途中、Sさんが来る。とっくに食事も終わって寝るところらしい。

「横峰寺までの坂はどんな感じだった?雰囲気だけでも知っておきたいんだ」
「料金所から上は、焼山寺の杖杉庵から上の感じでした」
「えーっ」
Sさんは、ちょっと愕然とした顔をした。焼山寺という名前は、お遍路にはそれだけで強烈なインパクトを与える。その上、僕は逆打ち、Sさんは順打ちだから、捉え方が多分違う。例えが悪かったかも。

食事が終わって、洗濯機を回しながら、買い置きの日本酒をゆっくり一杯飲む。洗濯200円、乾燥機200円の400円。高いような安いような。

洗濯も終わって落ち着いたので、あらためて風呂に入る。普段はこんなことはしないのだが、筋肉疲労をとるために入ることにした。ここの温泉は、筋肉疲労にもよく効くらしいし。

風呂には先に人が入っていた。ちょっと話をする。どうやらここの経営者らしい。歳は僕と同い年。部屋に案内してくれたおかみさんの息子さんだろう。ここでいろんな話を聞く。

不法投棄を監視しているから、へんろ道のゴミは減ったが、峠一つ向こうの谷が今ではゴミ捨て場所になっていること。一昨年の豪雨でまだ流木が片づけられていない部分は、民有林であること。地主が片づけるだけの資力がないためだそうだ。また彼自身、お遍路にも行きたいが、こんな商売をしているとなかなか行けないことなど。しかし一杯飲んで風呂に入っていたので、ちょっと湯あたり気味。それを理由に、途中で失礼してしまった。本当は一杯やりながら、いろいろ聞きたいところだったが。

部屋に帰って、早々に就寝する。

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