2005年夏
7月16日(22〜23番)
2006年春
2007年春
2007年冬
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■まずは前回打ち切った札所へ。二十二番霊場「平等寺」(7:25/6.2km) 朝5時に起き、洗顔と身支度をして、近くのコンビニで朝食用のおにぎりとお茶を買う。マダムはこのために、わざわざ早く起きて、玄関の鍵を開けてくれた。5時半前にホテルを出て、まず「みどりの窓口」へ。名古屋で買いそびれた高知−名古屋のチケットを買う。こんなに朝早いというのに「みどりの窓口」には何人かのお客がいた。 5時47分発の牟岐線に乗る。始発だから空いていたが、車両の前半分にはテニスの試合に向かう高校生の一団が乗り込んでいて、にぎやかだ。列車内でゆっくり朝食を食べる。 のんびりした景色の中を1時間半ほど乗ると、目的地「新野(あらたの)」に到着する。降りたのは僕一人。当然、無人駅だ。待合室で自転車を組み立てる。後から、徳島方面への列車を待つ男性が一人入ってきた。 前輪をはめようとするとその男性が声をかけてきた。僕と同世代くらいだろうか。「それ、反対だよ。僕も昔乗ってたから知ってるんだけど」。前回に続いて、またやってしまった。 お礼を言って、照れくさいので黙々と組み立てる。組み終わると男性は「ちょっと持たせて」と言って自転車を持ち上げる。「結構重いね」「アルミじゃなくて鉄ですから」。普段なら自転車談義を交わすところだが、先のことを考えると気が急く。バッグを取り付け、挨拶をして一路平等寺へ向かう。 途中、歩きのお遍路とすれ違う。挨拶を交わして、ついでに道を確認する。 平等寺で区切り打ちを始めるご挨拶をする。ついでに手ぬぐいを買う。鉢巻にして汗止め用にするつもりだ。バンダナも持ってきたが、やはり手ぬぐいは使いやすい。今回手ぬぐいは、最後まで大活躍してくれた。 7:50出発。
■ヘンロ小屋で一休み。鉦打おへんろさん休憩所(8:30/13.7km) 薬王寺めざして走り出すと、なぜか体が重い。前回のように軽快に走れない。これは今回の3日間を通して変わらなかった。体調のせいなのか、照りつける南国の太陽のせいなのか。多分暑さと強烈な日差しのせいだろう。いくら頑張っても、若い頃のような体力はない。そのうち「室戸102km」という看板が見える。距離と体の重さでちょっとひるむ。
国道55号をひたすらペダルをこぐ。やがて最初のトンネル、鉦打トンネルに入る。歩道もそれなりに幅があって、思ったより走りやすかった。しかし中の悪臭にはまいった。排気ガスではなく、堆肥の充満したようなにおい。こんなにおいがしたのは、このトンネルだけだった。 トンネルを出てほっとし、しばらく走ると道路わきにあずま屋が見えた。見ると「ヘンロ小屋3号 鉦打おへんろさん休憩所」とある。各地でヘンロ小屋が出来ているというのはネットで知っていたが、実物を見るのは初めてだ。 せっかくなので一休み。ノートもあって、たくさんの書き込みがあった。とはいっても、気が急くので10分ほど休んで8:40出発。
■宿坊の立派なことに感心。二十三番霊場「薬王寺」(9:40/28.0km) とにかく暑い。名古屋のまとわりつくような暑さではなく、日差しが刺さるような暑さだ。知らなかったが、この日、四国地方の梅雨が明けたらしい。 日和佐町に入ったあたりの峠の途中で、またお遍路休息所を発見。どうやら国土交通省関係のものらしい。ここでも折角なので一休み。理由をつけては休んでいる。中には「自由にお持ちください」と書いた防水ケースが置かれている。開けてみると、仏教とも関係のなさそうな宗教団体のパンフレットが大量に詰め込まれていた。
途中、白人の女性が、帽子もかぶらずに国道を歩いていた。ちょっと散歩、といった軽装だが、近くの集落まで結構距離もある。この暑さは平気なんだろうか。しばらくしてローソンを発見し、飲料水を補給する。熱中症でリタイアするのだけは避けたいので、なるべく多く水分をとるようにする。店の中はドライブで海に出かける学生さんでいっぱいだ。学生時代を思い出す。 やがて薬王寺が見えてきた。厄除けで有名と本には書いてあったが、遠くからも人が来るのだろう。周りに土産物屋が何軒もあった。寺院の建物も広壮で、とくに山門脇の宿坊がめだつ。 山門で一礼して入ると、中は綺麗に掃き清められていて、新しい石碑や灯篭が目立つ。「吉川英治著 鳴門秘帖 舞台之寺」とか「司馬遼太郎著 空海の風景 登場之寺」などの石碑もある。 参拝を済ませ納経所で朱印をいただく。納経代を忘れて立ち去ろうとすると、若いお坊さんに声をかけられる。「納経料をお願いします」。参拝の手順やお経をあげるのに注意が行って、納経料まで頭が回らなかったようだ。今回もまだ地に足がついていない。 納経料を払って、ついでに販売所に寄って線香入れを買う。お坊さんも全体にてきぱきしていて、ホテルの売店で買い物しているような気がした。 10:15出発。
■初めての別格霊場。別格四番霊場「鯖大師」(12:50/48.5km) 薬王寺を出てすぐに、道の駅があった。かなり広く、自転車でぐるっと回る。アイスクリンを売っていたので、初めて食べてみる。昔駄菓子屋でアイスクリームと言って売っていたものと同じ味がする。 何だか動きたくない。気持ちは行かなくては、と思うのだが、体が嫌がっている。日陰のベンチでタバコを吸ったり缶コーヒーを飲んだりする。腹も減ってきた。 道の駅の隣にある「はしもと」に入り、うどんを食べる。ランチはバイキングで食べ放題らしいが、そこまでは食欲もない。待っている間、備え付けの超音波メガネ洗浄器でメガネの掃除などをする。我ながら、ほんとうにグータラしている。 11:05出発。 1時間ほど走ると、急に右足がつりそうになってきた。やばい。本当につるとしばらく走れない。ゆっくり左足だけでペダルを踏んでそろそろ進む。寒い時期にはたまにこんなこともあるが、この季節では初めてだ。やはりトレーニング不足なんだろう。 運良く牟岐町の中心部だった。期待したとおり喫茶店があった。飛び込んで、アイスコーヒーを頼む。よく効いた冷房に生き返る。30分ほどゆっくり休む。足の違和感もなくなってきたので12時半、出発。 道の駅と喫茶店で1時間はロスしている。この1時間があとで効くんだろうなぁ、と思うが仕方がない。 町を外れてゆるやかな峠を上がっていくと、牟岐警察があり、駐車場にテントが張ってある。有名なお遍路接待所だ。 やがて左手に太平洋が見えはじめる。それがこのあたりになると、本格的に海が広がっている。とにかく広い。気分がちょっと楽になる。
鯖大師の案内看板が見えてきた。これまで番外札所は行かなかったが、鯖大師は国道55号のすぐ近くらしい。せっかくだから参拝することにする。 普通の札所に比べてコンパクトな感じで親近感を覚える。まるで近所のお寺のようだ。大師堂の鯖のオブジェが面白かった。写真に撮り損なったのは残念。 参拝を終えて朱印をいただき、ついでに念珠玉を一つ買う。すると窓口の女性が、「親玉はどうしますか?」と聞かれた。親玉は毎年回りもちで、今年は鯖大師が親玉を扱う札所らしい。せっかくだからお願いした。しかし念珠にするには、他の別格19札所を回る必要がある。いつかは回れるるのだろうか。今は八十八箇所を回るだけでも精一杯だ。 13:15出発。
一所懸命の気持ちが伝わる宿。<民宿 徳増>やがて「室戸 50km」の標識が見えてきた。腕時計をみると14時ジャストだった。 鯖大師を出て1時間、14時過ぎ、右手にコンビニが見える。ここで一休み。小腹が減ったのでおにぎり2個とお茶を買う。それに滅多に買うことのない栄養ドリンクも。 コンビニの中は冷房が効いて快適だ。外は刺すように陽光が降り注ぐ南国の夏。ここで食べられたらなぁ。幸いコンビニの前に木のベンチとテーブルがあった。そこでなら食べてもいいと言われたので、座り込む。暑いには暑いが、日陰になっていて少しは楽だ。目の前に広がる太平洋を眺めながらおにぎりをかじり、ドリンクを飲む。20分ほどで出発。 太平洋を左手に眺めながらペダルを踏む。道はなだらかなアップダウンの連続だ。しかしちょっとの上り坂でも、あまりの暑さにへばり気味となる。1時間ほどで「ゴロゴロ海岸」にさしかかった。おおぶりの漬物石のような丸石が、波にもまれてぶつかり合い、ゴロゴロという音をたてることから名づけられたという。ちょうど休憩所があるので小休止。
自転車を停めると、確かにゴーッという大きな遠雷のような音が聞こえる。たまに近くでカツンというような音も混じる、ような気がした。誰もいない、車も通らないしんとした場所で海鳴りの音だけが轟く。一種不気味だ。波もかなり高い。10分ほど休み、15:35出発。ここまでで走行距離は74.4km。 休憩所の少し手前の峠に、「民宿とくます 20km」という看板があった。車道をショートカットする近道が書かれた親切なものだ。歩きのお遍路用だろうが、自転車で走っていてもほっとする。ましてや延々歩いていると、こうした看板が大きな励みになることだろう。 暑さにぼーっとなって走っている。たまに車が追い越していくが、それも数分に1台程度。そのうち1台のワゴン車が横を追い抜いていく。突然耳元で、子供の叫ぶ声が聞こえ、ワゴン車が一台抜きさって行く。一瞬、「?」。ワンテンポおいて、その叫び声が、「ガンバッテネ!」と言っているのだとわかった。ありがとう、という間もなく、ワゴン車はカーブを曲がって走り去っていった。咄嗟のことで手を上げる余裕もなかった。余裕がなく走っている自分が情けない。 民宿徳増についたのは、16:40。 当初の予定では、あわよくば最御崎寺を参拝してここまで戻れればと思っていたが、実際はそれどころではなかった。 おかみさんの案内で部屋に入ると、冷たい麦茶と和菓子を置いてくれる。実に嬉しいもてなしだ。食事もおばあちゃん、おかみさん、息子さん、三代にわたっての協同作業。元南海ホークスのドカベン、香川選手がこの辺りの出身とか。そんな話を聞くのも楽しかった。いろんな所に気配りが感じられて、気持ちよく泊まれた。
夜、海岸に面した部屋では、波の打ち寄せる音が響く。海鳴りとかのレベルではない。まるで台風の中にいるような激しさだ。その音を聞きながら翌日の予定と地図を確認する。わけてもらった「土佐鶴」を飲んで横になると、すぐに寝てしまった。
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